愛しい者

Act.1 クラピカ

「人はいずれ死ぬ。そうは思わないか?医者なんて必要ないんだ死期を伸ばすだけで、
人を本当に救うこと なんて出来やしない。・・・・・本当に人を、救ってはくれないんだ。」

パン!

頬に平手が飛ぶ。クラピカは叩かれた頬を手で覆い、相手を睨み返した。
そして、何も言わずに部屋を飛び出して行った。

残された男、名前はレオリオと言った。彼はただ、自分の手を見つめていた。

一方、クラピカは・・・
とある路地を、ゆっくりと歩いていた。
雨が降り出しても、その足が止まることはなかった。


しばらく歩き続け、小さな公園のベンチに腰を下ろした。


これで良かった・・・。私は一人で生きていかなければならない。
特に、クモを倒すと誓った以上は。
レオリオまでを危険にさらせたくはない。


雨は冷たく、クラピカに降りかかる。


彼は、私を追いかけて来てくれるだろうか・・・


ふと、そんな期待が頭に浮かんだ。
孤独になりたくはないと思う自分が、たまらなく憎かった。
人の助けを求めている自分が、たまらなく憎かった。


―――トキ ノ キオク 二 目 ヲ ソムケル コト ハ デキナイ

デキナイ・・・・

―――アノヒ オコッタ コト ハ スベテ 真実

スベテ・・・・


クラピカは再び雨の中を歩き出した。
そして辿り着いた先は、ノストラ−ド組(ファミリー)。

屋敷の中に入ると、そこには見慣れた姿があった。
「どうしたの、クラピカ。こんなに濡れて・・・。」
クラピカの仕事仲間のセンリツだった。
「別に・・・気にしないでくれ。それより、少し疲れているんだ。
すまないが、先に休ませてもらってもいいか?」
そう言って、彼は力無く微笑んだ。
「ええ・・・。みんなには私から言っておくわ。」

彼の心音に、嘘はなかった。
しかし、それは今まで以上に重く、暗く、そして深く、沈んでいた。



自室の扉をおもむろに開ける。そして、シャワー室へ向かった。
雨水を熱いお湯で洗い流し、ベッドに座った。
携帯に手を伸ばし、ボタンを押した。

プルルルル・・・

「はいっ!もしもし?」
受話器の向こうから、元気のいい声がこだまする。
「ゴンか?私だ。クラピカだ。」
「クラピカ!?久しぶり!どうしたの?レオリオは?」

一瞬の沈黙があった。

クラピカは携帯を強く握り返した。
「レオリオとは、さっき別れた。ゴン、キルアにも伝えておいてくれないか?
もう私は・・・・お前達とは会えない・・・・・。」
「えっ?ちょっ、クラピカ?どういうこと!?」
急にゴンの声のトーンが上がる。それを聞いただけで焦っているのいが分かった。
クラピカの唇が、ゆっくりと動いた。
「さよなら・・・だ。」
言って電源を切った。
電話の向こうでゴンがこちらに向かって話しかけようとする姿が目の前に浮かんだ。

―――サヨナラ・・・・

これで一人になれたんだ。

―――独リ ニ ナレタンダ・・・・・

クラピカは瞳を閉じ、自分を襲う眠りに身を任せた。



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